JMDCが展開する医療ビッグデータ事業の一つに、製薬企業向けの各種サービス・プロダクト開発・販売があります。
薬がどんな患者さんにどのような使われ方をされているのか、医療現場のリアルな動向をデータで把握できたらーー。当時、製薬業界に身を置いていたJMDC創業者の木村がこう考えたことが、当社の立ち上げにつながりました。
そして現在、多くの製薬企業にJMDCのデータ分析ツールを導入いただくようになり、ビッグデータをもとに判断し行動する企業活動が根付きつつあります。
医療にとって欠かせない製薬分野のサービスを手がける意義とは何なのか?どんなプロダクトを開発しているのか?そしてその面白さとは?プロダクト開発部長の山下さんと製薬部の営業マネージャー穴吹さんにお話を伺いました。
プロフィール
山下 慶人(やました けいと) 株式会社JMDC 開発本部 プロダクト開発部長
SIerなど数社にて、PM・プリセールス・開発・運用など様々経験。2012年、JMDCにジョインし、基幹システム開発から新規Webサービス開発など担当。2020年よりプロダクト開発部長として、製薬企業向け・健保向け・医療機関向けプロダクト開発をマネジメントする。
プロフィール
穴吹 楓(あなぶき かえで) 株式会社JMDC 製薬本部 営業部 マネージャー
エンジニアとしてECUの通信制御ソフトウェア構築を経験した後、病院経営改善のコンサルティングファームで地方の赤字病院の再生プロジェクトに従事。2015年、JMDCに参画し、2019年より製薬向けのコンサルティング営業チームのマネージャーとして、主に外資系や海外顧客を担当。チームマネジメントのほか、商品企画やマーケティングにも携わる。
1300万人分の診療データで、個別患者の動向を把握
ーー製薬企業向けのサービス領域について教えてください。
穴吹:JMDCが保有する医療ビッグデータを活用し、データ提供・集計サービス、Web分析ツール、解析サービス、コンサルティングといった各種サービスを提供しています。
クライアントの製薬企業は、医療用医薬品メーカーがメインです。医療用医薬品とは、医師が治療で使う薬や、医師の処方箋をもと薬剤師が調剤する薬のことですね。
製薬企業には、下図のように、新薬の開発からマーケティング・営業、販売後の安全性管理といった各フェーズが存在します。私たちは、これらのフェーズに一気通貫で使える、または各フェーズに対応するソリューションをお届けしています。
ーー製薬業界は、どんな課題を抱えているのでしょうか?
穴吹:製薬業界では、「患者の現状がまだまだつかみ切れていない」のが課題です。高度な専門性を持って、治療に役立つ薬を作って販売しているのですが、商品のユーザーにあたる患者について、まだわからないことが多いのが現状なのです。
例えば、患者はどこに何名いるのか。どのような経緯で病院に行ったのか、また病院に行っていない潜在的な患者はどのくらいいるのか。自社の薬がどこでどんな治療のために使われたのかなど。知りたくても調べる方法が限定的で、把握するのが難しいんですね。
製薬企業の中には、医師にインタビューしたり、いくつかの病院からデータを集めたりとできる限りの努力をされています。ですが、こうして収集した情報は、あくまでもほんの一部に過ぎません。
本当に必要なところへ適切な薬を届け切るには、少ない情報だとカバーしきれません。もっと多くの情報から、全国にいる患者がどこでどんな治療を経て、何の薬を飲んだのかを把握できなければ、治療に効果のある最適な薬を病院に届けられず、重症化するリスクにつながる可能性も出てくるのです。
ーーなるほど。このような課題をビッグデータ活用で解決に導いているのですね。
穴吹:はい。JMDCでは、累計1300万人ものレセプトデータ(健康保険組合から収集している診療報酬明細書)を筆頭に、さまざまな医療データを蓄積しています。こうしたデータを分析するソリューションを使えば、国内患者さんの全体像を知る一助になります。
特に、JMDCのWeb分析ツールでは、病院の規模や患者さんの年齢など、ビッグデータをさまざまな切り口で手軽に分析できることが特長です。どのような患者が病院でどんな治療を受けて、どの薬が出されたのかが一目瞭然でわかる。ここに大きな価値を感じていただいています。
ーーサービス提供を通して、貢献度を感じらるのはどんな点でしょうか。
穴吹:製薬業界に対して「データを活用する文化」を作れている実感があります。業界でビッグデータが使われ出したのは、ここ10年くらいです。ただ、現場ではデータの効果的な使い方がわからないといったケースが今も結構あるんですね。
一方、当社のWeb分析ツールは、わかりやすいUI設計をしているので、データになじみのない方でも簡単にアクセスしてデータに触れられます。ツールを導入いただくと、お客様が飛躍的に変化していく姿を垣間見られて、私自身ものすごいやりがいになっていますね。
そして、製薬業界に貢献できるということは、その先にいる患者さんに薬が届き、病気やケガを治していけるということ。人々の健康に直接影響を与えられる意義のある仕事をしていると感じます。
ーーWeb分析ツールを利用することで、患者さんに適切な薬が届いたり、リスクを軽減できた具体的な活用事例があれば、教えてください。
穴吹:クライアントさんから「ツールがこんなふうに役に立った」と、さまざまなお話を伺っているのですが、その中でも特に印象に残っている事例をお伝えしますね。
一つは、営業での活用です。ある特定疾患向けの新薬をリリースした後、分析ツールで、その疾患で絞り込み、どこでどのように薬が処方されているのか解析を回して確認しました。すると、その疾患の患者の治療で、自社の薬が適切なタイミングで使われていないことがわかり、病院への営業を強化。結果、医師・患者の治療に対する理解が進み、患者さんに適切に処方されるようになったという事例です。
もう一つは、市販後調査という市場に出た薬の安全性をチェックするフェーズでの事例です。薬は臨床試験で安全性を確認した後に発売されますが、例えば飲み方や組み合わせを間違えれば体に想定外の影響を及ぼすこともあるため、製薬企業は発売後も安全性をモニタリングし、患者に情報を提供する義務があります。
いくつかの製薬企業では、通常の安全性関連の調査にJMDCのWebツールも活用いただいています。個々の病院の調査からでは見えてこない、薬を処方された患者の全体像の把握や、飲んでいない患者との比較が簡単にできる点を重宝いただいています。
新規のWebツール開発へ。イチから手がけられる面白いフェーズ
ーーここからは、製薬会社向けのプロダクト開発について山下さんにお伺いします。開発において、どんなデータを利用しているのですか?
山下:「保険者データ」と「医療機関データ」の2つで、現状は保険者データが多い状況です。
保険者データは、健康保険組合から受領しているデータで、①加入者台帳データ、②レセプトデータ、③健康診断データの3つがあります。
①の加入者台帳データは、加入者の氏名などの個人情報が含まれたデータ、②レセプトデータは、病院でどんな治療がなされたのかが記載されている治療報酬明細書を指します。③は健康診断の記録ですね。①がマスタで、②、③がトランザクションのような関係性になっています。
JMDCでは、業界最大規模のレセプトデータ(国内の10%にあたる累計1300万人、約6億5000万件)を蓄積しているのが強みです。さらにプラスして、①の加入者台帳データを保有していることが、大きな優位性につながっています。
なぜなら、加入者全員の情報が含まれる台帳データがあることで、直接病院に行っていない健康とされる人々のデータも取れるからです。(台帳データを持っている他社の話はあまり耳にしません。もし持っていたとしても少量だと思います)
この台帳データとレセプトデータが合わさることで、特定の疾患の国内推計患者数が割り出せたり、薬のマーケットシェアを測定できます。これはJMDCならではで、製薬会社にとっても重宝されるところですね。
①②③とも個人情報が入ったデータを受領していますが、当社の中で匿名化し、厳重に管理しています。匿名化したデータを使えることも、お客様が信頼を寄せていただいている要因の一つだと思います。
ーー先ほど、穴吹さんがお話していたWeb分析ツールについて詳しく聞かせてください。
山下:製薬企業向けのWeb分析ツールは、現在、「JMDC Data Mart(JDM)」と「JMDC Pro」の2つを展開しています。製薬企業が調査用にデータ抽出するためのツールで、個社ごとにID発行をしています。
「JMDC Data Mart(JDM)」は、当社の保険者データベース&医療機関データベースとつながっている、スピーディで直観的な分析ができるオンラインツールです。条件を絞り込んで、データ抽出し、CSVデータに落とすことができます。疾患ごとに絞って、患者の治療の動向を調べたり、市販後調査にご活用いただいております。
「JMDC Pro」は、Googleグループ会社の米国Looker社のBIツールをベースにした、リアルワールドデータ(RWD)分析ツールです。リアルワールドデータとは、医療現場の臨床(診察・治療)で発生するデータの総称のこと。データソースとしては、保険者データベースの他に、臨床検査値など新しいデータソースでの分析もできます。
「JDM」との違いは、データを図表やグラフで可視化している点。ぱっと見て動向を把握できるので、分析の専門的知見が少なくてもデータを活用できるのが利点です。特に、マーケティングや営業用に利用いただいくことが多いですね。
ーーこうしたプロダクトを開発する面白さは、どんな点にありますか?
山下:Webツールでは、大量のデータを扱っているため、データ抽出にそれなりに時間がかかる場合があります。そこで、抽出スピードを上げて、速く表示させるために、SQLのチューニングを都度行っています。ここは、SQLの技術をいかんなく発揮できる仕事ですので、面白いと思います。
また、JMDCでは現場ベースでPoCを実施するのが特徴です。なので、データベースやシステム、言語などの開発技術の選定にも主体的に関わることができます。
少し前には、データ抽出のスピードアップを目的に、データベースの検証を繰り返し、AWS Redshiftを新しく導入しました。「JDM」はRedshiftを、「JMDC Pro」はBigQueryを使っています。今後は2つのうちどちらかに収束するか、はたまた他の新しいものを入れるか。まだわかりませんが、みんなで議論するのは楽しいですね。エンジニアにとって選定部分に関われるのは、やはり特別なことだと思います。
ーー現在、特に力を入れている開発はありますか?
山下:はい。これまではデータベースを軸にしたプロダクト開発がメインでしたが、今後は、新しいWebツールの価値創出に力を入れていく予定です。今まさに転換期で試行錯誤しているところなんですよ。
最近、新たに受領しはじめた調剤データを使った新規サービスの開発を進めています。モックアップを作って、お客様にテスト的に利用してもらい、フィードバックをもとに改良を重ねている最中で、来年度のリリースを目指しています。
受領するデータの幅が広がっていることから、今後も新規ツールを作る機会は増えていくでしょう。自社サービスをイチから開発できる今は、本当に面白いフェーズだと思います。
営業と開発は、同じゴールを共有する仲間である
ーー開発組織や業務の特徴を教えていただけますか?
山下:私が部長を務めるプロダクト開発部では、製薬企業向けのみならず、医療機器メーカー向け、保険組合向けなど各事業に沿って、さまざまなプロダクトを開発しています。
基本的な業務としては、営業サイドから寄せられたクライアントの要望に対して、開発の検討を行い、見積もりやスケジュールを作成。営業にROIなど数値面で問題ないか確認してもらったうえで、開発に入ります。その後、バグなど問題がないかチェックしてリリースをしています。部内では常時、中規模以上の開発案件が1~2件ほど動いていますね。
ほかには、月1回の保守業務があります。データ基盤からデータを更新し、間違ったデータが含まれていないかチェックを行っています。
開発体制としては、現在、SREエンジニア1名がインフラ全体を見ていて、フロントエンドとバックエンドは、プロダクトごとにチームを組んで開発に当たっています。
ーーJMDCの開発現場には、どんなカルチャーがありますか?
山下:自ら考え、自発的にアウトプットする姿勢を重視しています。受託開発ではないため、要望にそのまま応えるのが必ずしも良いとは限らないためです。そういう点では、受け身ではなく、システムを自分事として考えられる人、ユーザー志向の開発ができる人が活躍している環境ですね。
つい最近の出来事ですが、私がちょっとした思い付きで「こんな機能があればいいのでは?」とリーダーに持ちかけたら「それは何のためですか?お客さんのために本当に必要ですか?」と言われて、ハッとしました(笑)。うちの開発らしくて良いなと。上意下達のものづくりでは、本当にいいものはできません。「ユーザーのためになるのか」という軸で、フラットに議論ができるのもJMDCらしさだと思っています。
ーー基本業務以外で取り組んでいることは、何かありますか?
山下:開発本部全体のワーキンググループがありますが、プロダクト開発部内でも、有志でワーキンググループの取り組みを行っています。今動いているのは、WebサービスのバックエンドでのAPI検討や、営業サポートの対応改善ですね。後者では、顧客の問い合わせを受ける営業サポートがスムーズに対応できるような改善案を考えています。20代の若手エンジニアから、自発的に立ち上がったワーキンググループです。
ーー開発部門は、営業と連携することも多いですよね。山下さん、穴吹さんは、それぞれの役割をどう思っているのでしょう?
山下:穴吹さんはじめ製薬の営業の皆さんには、心底尊敬の念をいだいています。達成が厳しい目標でも毎回必ず達成していて、本当に営業力が強いなと感じます。お客様と開発の間に入って、厳しい局面もあると思うのですが、決して開発側に詰め寄ったり、無理な要求をすることもなくて。皆さん、優しくて、私たちはのびのびとチャレンジさせてもらえている感じです。
穴吹:そこまでお褒めいただき光栄です(笑)。私は、開発部門は「一緒に売上を達成する」「良いプロダクトを開発する」というゴールをしっかり共有できている仲間だと思っています。お話していても「お客さんにいいものを届けたい」という思いを感じ取ることが多くて。私たちの要望に「もっとこうした方がいい」「むしろこの機能はない方がいい」と明確に伝えてくれるので、すごく助かっています。
これからも、製薬業界に貢献できるサービスを一緒に作っていきましょう!